自然災害や暴力、虐待やいじめ、事故、戦争、喪失体験などの強いストレスを受けたときに、脳に外傷が起きることがあります。これを心的外傷(トラウマ)といいます。PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、そのような大きなショックを受けるトラウマ体験にあうことで、フラッシュバックなどの症状が現われる病気です。
心的外傷により、下記の4つの症状が1か月以上続いて苦痛をもたらしたり生活に支障が出た場合には、PTSDに該当します。(ただし、症状が1か月未満の場合はASD(急性ストレス障害)、一部の症状に該当する場合は部分PTSD、原因が特定の出来事ではなく家庭内の長期に渡る虐待による場合は複雑性PTSDと呼ばれ、いずれにしても治療が必要な場合があります。)
PTSDの症状について
再体験症状
トラウマになったできごとが、フラッシュバック(突然鮮明に思い出されること)や夢で、繰り返しよみがえること。なかでも、まるで今現在そのできごとを体験しているような状態になることを解離性フラッシュバックといいます。
回避症状
トラウマ体験と関連すること(場所や行動、思考、感情、会話など)を極力避けようとすること。そのため、活動の範囲が狭まることもあります。
マヒ症状
トラウマ体験をきっかけに、恐怖感や罪悪感、恥や怒り、悲しみなどのネガティブな感情に圧倒され、愛情や幸福感を感じにくくなること。「認知(考え方)と気分の陰性の変化」と呼ばれることもあります。
覚醒亢進症状
精神的な緊張が高まって、常にぴりぴりしているような状態になること。よく眠れなかったり、目の前のことに集中しにくくなったり、ちょっとしたことでひどく驚くことがあります。
PTSDの治療について
PTSDの治療では、SSRIなどの薬が症状を和らげるために補助的に使用されますが、精神療法が中心となります。代表的な精神療法には以下のものがあります。
カウンセリング・心理教育
精神科医や臨床心理士が患者の話を聞いて、どんなトラウマ反応が出ているかを知り、患者が自分でその症状に気づいて把握できるように導いてくれます。トラウマによって起きる変化が正常な反応であることを伝えてくれ、人間不信や自己否定を改善してバランスのとれた考え方ができるようにアドバイスをしてくれます。
持続エクスポージャー法
思い出すのもつらいトラウマ経験を、安全な環境で思い出し、治療者に語ることで、思い出しても危険はないことに気づいたり、記憶のなかに、別の要素があることに気づいたりしていきます。今もまだ被害を受けるおそれのある人や、ストレスで乖離状態や自傷、他害を起こすリスクが高い人には向きませんが、PTSDに高い治療効果が認められています。認知行動療法と呼ばれる治療法のひとつです。
EMDR
トラウマ体験を思い出したり、関連したことをイメージしたあとで、医師の指の動きを目で追って眼球を左右に動かし、眼球の運動で脳を刺激することで情報処理のプロセスを活性化します。イメージや考え方の変化があれば医師に伝え、リラクゼーションを行ってから治療を終了します。治療者には専門のトレーニングが必要なため、実施できる医療機関は限られますが、再体験症状や回避・マヒ症状に効果があるとされています。
対人関係療法
患者にとって重要な存在である、家族や恋人、友人などの親密な関係にある他者との現在の関係に焦点をあてたカウンセリングを行います。持続エクスポージャー法などの暴露療法ができない人にも利用できます。
TFT(思考場療法、つぼトントン)
鍼のツボをタッピングすることで心理症状を改善していく方法です。
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TF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)
子どもやその保護者を対象として、トラウマへの適切な対処を訓練していく治療法です。
ストレスマネジメントや感情表出を学習したあとで、トラウマ記憶と少しずつ向き合って慣れていくことができるプログラムです。
こちらに治療者リストがあるので、参考にしてみてください。
○自分でできるケア
昼間はできるだけ外出する、生活の記録をつけるなどして、自分に合った方法で生活リズムを整えることが気持ちを整えるためにも有効です。また、運動や入浴、ヨガ、腹式呼吸、掃除なども効果的とされています。
○PTSDと併発しやすい病気
PTSDはうつ病や物質使用障害(アルコール依存症) などを併発しやすいと言われています。
参考文献、参考サイト
・「こころのクスリBOOKS よくわかるパニック症・広場恐怖症・PTSD」(貝谷久宜監修,主婦の友社,2018)
・LITALICO発達ナビ「PTSDとは?」
・日本トラウマティックストレス学会HP「PTSDとは」